納車整備 クラッチ編

3回目はクラッチ編です。




今回も注意書きです。

今回紹介する作業を全ての車に一律に行うわけではありません。例えば、当社の管理ユーザー様からの下取り車で、整備履歴が完全に分かっていれば、保険的な整備は行わないことも多いです。そういう車は経費がかからないので、その分安く販売されています。

それから、部品を交換するか、オーバーホールするかというのも、車ごとに状態を判断して行っています。当社が交換しなくていいと判断しているものを無料で交換してくれというご要望にはお答えできません。もし、当社の通常の基準以上の整備をご希望の場合は、ご予算を指定していただければ、それに応じて追加の整備を提案させていただきます。その場合はサービス価格で対応させていただきます。また、この車は新品交換されているのに、自分の車は交換されていないというクレームもお受けできません。その場合は、その車はこの車よりも状態が良かったのでしょうし、別の部分ではこの車では交換する必要が無かったものが交換されているかもしれません。

掲載している価格は掲載日現在のものです。為替変動もありますし、ランドローバーの部品価格は急激に変動することがありますので、ずっとこの価格であるとも限りません。また、金額に含まれる部品代、工賃は当社で作業した場合の費用です。整備工場によってはもっと高い場合も安い場合もあると思います。


それでは、ご紹介します。

クラッチオーバーホールは、おそらく、故障修理ではなく、整備に分類されるものでは最大の費用がかかる作業です。

ディフェンダーの場合、クラッチディスクの摩耗で交換が必要になることはまずありません。特殊な乗り方をしなければ、20万km走った車をオーバーホールしても、ディスクの残量は十分であることがほとんどです。では、なぜオーバーホールが必要になるかといえば、いくつかの部品にトラブルが出ることがあるからです。

最も有名なのはレリーズフォークの突き抜けですが、これはTdiだけに起こります。それから、ディスクのダンパスプリングの脱落、破損、これはTdiとTDCiで事例があります。Td5はダンパスプリングがありません。そして、クラッチカバーのダイヤフラムスプリングの破損。これもいまのところTdiのみですが、他のエンジンでも起こってもおかしくはありません。
Tdiのクラッチについてはこちらに詳しく書いてあります。


ではTd5はトラブルが少ないのかといえば、確かにクラッチ(油圧部除く)が原因で走行不能になるようなトラブルは今まで一度もないですが、Td5にはフライホイールがあります。もちろんフライホイールは他のエンジンにもあるのですが、Td5はクラッチディスクにダンパスプリングがない代わりに、フライホイールにゴムのダンパーが使用されていて、これが劣化すると振動や異音が出たりすることがあります。

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クラッチオーバーホールの際には同時交換することが望ましいのですが、かなり高価です。どれも一長一短あるということかもしれません。当社では基本的に交換しています。

さて、今回の車の作業です。

まず、ミッションを降ろす必要がありますのでそれだけで大掛かりな作業です。

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ミッションを降ろしたら、内部の各部品の状態を確認し、必要に応じて交換します。

チェックするべきはまずベアリングガイド。

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レリーズフォークの視点となる部品ですが、ここが摩耗してしまっている場合があります。この車はOK。半分くらいの車が交換が必要な状態です。

次にプッシュロッドとレリーズフォークです。

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特にTd5ですが、プッシュロッドの先端の球状の部分、レリーズフォークとの当たり面が摩耗していることが多いです。この車もダメです。こうなっていると、引っかかるのかクラッチの切れが悪くなります。

そしてレリーズフォーク。Td5はTdiのように突き抜けることはありませんが、プッシュロッドとの当たり面に圧入されているブッシュが摩耗していたり、酷い場合は脱落していることがあります。

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今回は摩耗が見られなかったので交換しなくてもいいかと思ったのですが、裏返したらブッシュがポロリと落ちました。ブッシュだけは部品も出ないのでフォークごと交換です。

それから、エンジン側です。クランクリヤシールもミッションを降ろしたときにしか交換できないので、この機に交換しておきます。

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Td5の場合、なぜかオイルパンガスケットに突起があって下からクランクリヤシールに嵌るようになっています。うまくやれば必ずしも必要はないようですが、オイル漏れの防止にもなりますし、オイルパンを脱着してガスケットも交換してしまった方がやりやすいです。

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今回のクラッチのオーバーホールで約20万円です。クラッチキットはVALEOのOEM品を使っています。問題があれば、ベアリングガイドやミッションマウントなども一緒に交換するので、もっと費用がかかることもあります。

 ところで、Td5は始動直後の半クラ状態の時にグーッという音が出る車が多いです。気温の低いときほどよく出て、距離が多くなればなるほど出やすくなりますが、2万kmで出ている車もあれば10万kmで出ない車もあります。早かれ遅かれ必ず出る音で、音が出ているからといって問題もないので、不具合だとは思いませんが、気になる音です。この音は大抵はしばらく走行すると消えるのですが、進行すると半クラのたびに出るということもあります。今のところ、どの部品が原因なのかはっきりしないのですが、クラッチオーバーホールをするとこの音は無くなります。フライホイールパイロットブッシュが原因なのかと思っていましたが、それらを交換しなくても音は消えるそうです。クラッチオーバーホールの際に必ず交換する部品のうちのどれかが原因なのでしょうが、それを追究するためだけに一つ部品を交換しては試運転するなどという手間をかける意味もありませんので、気にしないことにしています。クラッチオーバーホールしたのに改善しなかったという方がいたら、その時に何を交換したのか(しなかったのか)を知りたいので、情報をお願いします。

話を戻して、クラッチの油圧系に行きます。クラッチマスタシリンダー。

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悪名高い全年式共通のウイークポイントです。当社では純正品を使います。過去には社外品、OEM品を使いましたが、どうにもトラブルが多く、高価なのですが結局は純正品になりました。一番安い社外品など純正の5分の一くらいの価格のものもありますが、恐ろしい品質です。新車1000kmくらいで漏れる車もあるので、純正なら安心とは全く言えませんが、それでも純正のみの使用にしてから格段にトラブルは減りました。

そしてスレーブシリンダー。これももちろん純正使用です。

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この2点は、直近の自社での交換履歴でもない限り、必ず交換しています。しかし、新車でも1000kmで漏れることもあれば、10万kmでも漏れないこともあるので、正直なところ、もしかしたら漏れてないなら交換しない方が良いかとも思うのですが、状態をリセットするという意味で交換しています。

費用はこの2点で約5万円です。

クラッチオーバーホール 20万円
クラッチ油圧系      5万円
合計          25万円


次回に続きます。